コンクリートジャングルに背を向けて、

浮気

疲れ果てたカラダにムチを打ち、
家路へとたどり着いた、深夜2時の探偵土谷。

大都会東京の喧騒を逃れ、ひとり静かに過ごせるマイハウス。

コンビニ袋を提げながら、小脇にヘルメットを抱えて、
ドアの鍵を開けて、我が家に入る。

小さいが静かな我が家。
土谷にとっては安らぎの空間。


し・か・し・・・、

開口一番ならぬ、開扉一番、
アイツと出逢ってしまった。

  思わず口から声が漏れる。

  胸がキュンっと締め付けられる。


去年の秋ごろから見かけることも少なくなった、アイツに出逢ってしまったのだ。

扁平で黒光りするボディーに、長い触角。

見るもの全てに強烈なインパクトを与える、アイツとの久々の再会。

アイツは立派に大きく成長していた。
シンクの中を駆け回る姿に、土谷の心臓の高ぶりが止まらない。

我が家なのに、なぜか足音を忍ばせ、気配を断ち切る。
そっと手を伸ばし、武器を手に取る。

コレを使うのもいつ以来だろうか…、ふとそんなことが脳裏をよぎる。
硬いボール紙の手触りを確かめながら、慎重に狙いを定める。


  「成敗!」

暴れん坊将軍のキメ台詞とともに振り下ろされた一撃は、
正確にアイツのボディーに叩き込まれた。
サランラップの芯としてそれまで使われていたボール紙は
今では頼れる武器となっている。

六本の足をばたつかせ、断末魔の叫びを上げるアイツ。
さらにママレモンの水撃をお見舞いする。

動きが鈍くなったアイツを見て取った探偵土谷。
急いで、トイレットペーパーをぐるぐると何重にも巻き取り、
アイツを鷲づかみにする。

水洗トイレに放り込み、勝負アリ。

緊張から解き放たれた探偵土谷の耳には、
ゴォーと流れるトイレの水の音だけが響いていた・・・。